・ロシアのスパイが保釈後、逃亡? キプロス
2010.7.1 10:48
【ワシントン=佐々木類】
ロシアのスパイ11人が米連邦捜査局(FBI)に訴追された事件で、地中海東部の島国、キプロスで逮捕されたカナダ国籍のクリストファー・メトソス容疑者が、保釈された後、30日、所在不明となった。
キプロス警察当局者がロイター通信に語ったところによると、メトソス容疑者は保釈に当たり、30日午後に警察に出頭することになっていたが、現れなかった。
メトソス容疑者は、29日にキプロスから飛行機でハンガリーのブダペストに向かおうとしたところを逮捕された。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100701/amr1007011103002-n1.htm
・露スパイ事件 逃亡中のメトソス容疑者がキーマン
2010.7.3 18:24
【ワシントン=佐々木類】
ロシアのスパイ11人が米連邦捜査局(FBI)に訴追された事件で、地中海東部キプロスで逮捕、保釈されたあと逃亡中のメトソス容疑者(55)が、ロシアと米国内のスパイをつなぐキーマンだったことが判明した。
ただ、ネット上に自身の写真を掲載し「美しすぎる女スパイ」と米国内で話題が沸騰しているアンナ・チャップマン容疑者(28)への関心の高まりほどに、事件の実態解明は進んでいない。
訴状によると、メトソス容疑者は2001年2月から05年4月にかけ、彼らが“センター”と呼ぶロシア対外情報局(SVR)の指令を受け、ニュージャージー州の自称リチャード・マーフィー容疑者(39)にたびたび接触。
現金4万ドル(360万円相当)を手渡すなどした。
マーフィー容疑者は米国内のまとめ役とみられ、FBIも「容疑者#2」というコード名で呼び監視を強めていた。
暗号機能が付いた特殊ソフトが組み込まれたパソコンのメモリーチップをSVRから受け取り、他のスパイに渡していた。
2日には11人のうち、バージニア州アレクサンドリアの連邦裁判所に、ワシントン中心街でおとりのFBI捜査官と接触し現金5000ドル(45万相当)を授受していたセメンコ容疑者ら3人が出廷した。
検察側の訴状によると、このうち2容疑者は、ロシア国籍をもち夫婦を装い偽名を使っていたことを認めた。
セメンコ容疑者について、同じアパートに住む男性(51)は産経新聞に「(同容疑者が逮捕された)6月27日にFBIが来た。ふだんはあまり見かけないが、女性と同居し、音楽をかけていた」と語った。
勤務していた旅行代理店の女性職員は「取材に応じられない。彼のことは知らない」と口を閉ざした。
11人の容疑は、米軍の機密情報を不正に獲得したスパイ容疑ではなく、不法な政治活動やマネーロンダリング(資金洗浄)。
容疑者らが具体的にどんな機密情報を“センター”に送っていたのか、なお詳細は判然としない。
一方、米「FOXテレビ」は、ネット上で「赤毛のロシアスパイvsボンドガール」というコーナーを設け、チャップマン容疑者と、映画007に登場する女性スパイの写真を並べてみせた。
27日の逮捕前日におとりのFBI捜査官が同容疑者に接触し、彼女が2日以内にモスクワへ逃亡する意思を確認し、それが一斉逮捕の端緒となった。
彼女はフェースブックに、肌を露わにしたポーズ写真を掲載しスパイらしからぬ大胆な行動もとった。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100703/amr1007031827007-n1.htm
・スパイ事件、米露関係に暗い影 ナゾ残る逮捕のタイミング
2010.6.30 19:13
【ワシントン=佐々木類】
ロシアのスパイ11人が米連邦捜査局(FBI)に逮捕された事件は、米露両首脳が親密ぶりを演出する裏で、冷戦時代さながらのスパイ活動がいまなお行われていることを浮き彫りにした。
特に、強制捜査が訪米したメドベージェフ大統領の帰国直後だっただけに、露側は顔に泥を塗られた格好だ。
「リセット」(オバマ大統領)したはずの今後の米露関係に暗い影を落としそうだ。
「(今回の事件を)オバマ大統領には十分かつ適切に伝えた。司法省は適切に法を執行した」。
ギブズ米大統領報道官は6月29日の記者会見でこう強調し、大統領に捜査を事前報告していたことを明らかにした。
ただ、強制捜査が首脳会談3日後の27日であることをホワイトハウスが正確に把握し、大統領に伝えていたかどうかは不明だ。
米当局者の一人は、「オバマ大統領はこのタイミングでの強制捜査に不快感を持っていた」と証言する。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、米政府当局者は強制捜査に踏み切った理由について「容疑者のうち1人が27日に第3国経由でロシアに向けて出国し、米国に戻らないことが判明したためだ」と語った。
司法省のボイド報道官は逮捕時期をめぐり「さまざまな検討」があったことを認めており、政治的判断が働いた可能性を示唆した。
29日にキプロスで逮捕された容疑者以外の10人はカップルで、うち4組が夫婦。
ニュージャージー州で捕まった自称リチャード・マーフィーとシンシア両容疑者には小学生の娘がおり、近隣住民も「スパイには見えなかった」という。
バージニア州アーリントン市内の公園で接触した容疑者の一人はFBIのおとり捜査官の前で、協力費として5000ドル(45万円)入りの封筒を包んだ新聞紙をわざと落としたという。
同市内に住むミハイル・セメンコ容疑者は露英中西の言語に堪能で旅行代理店に勤務。
ビッキー・ペラス容疑者はスペイン語紙記者という顔を持っていた。
容疑者らは、旧ソ連国家保安委員会(KGB)が前身のロシア対外情報局(SVR)の指令で米政府の政策決定者に接近、小型核爆弾の開発やアフガニスタン情勢、米露新核軍縮条約への米政府の立場などを探っていたという。
米連邦裁判所の訴状によると、特殊ソフトを使った携帯用パソコンでSVR関係者と暗号化した文章で交信していた。
スパイ特有の手口を割り出しながら、FBIはなぜスパイ容疑ではなく司法長官に事前通告せずに政治活動を行った容疑を適用したのか。
スパイ容疑なら協力した側の米国人の摘発が不可欠なため、立件の容易な非合法政治活動容疑を適用したものとみられる。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100630/amr1006301915009-n1.htm
・「ありふれた夫婦」 米国で露のスパイ団、地域に浸透
2010.6.29 19:18
「ガーデニング好きの奥さん」「2人の息子を持つ、ありふれた夫婦」。
ロシアのスパイとして米当局が28日までに訴追した11人は、10年以上かけて地域に溶け込んでいた。
スパイ映画さながらの方法で、金や情報をやりとりしていたとされる。
訴追記録や米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、27日に逮捕された10人はカップル5組で、もう1人は行方不明。
米国で核弾頭開発計画などの情報を収集していたとされ、10年以上前からニューヨーク郊外やボストン、シアトルなどに身元を偽って居住。
連邦捜査局(FBI)が7年以上前から監視してきた。
ニューヨーク郊外の駅などで国連ロシア代表部関係者らから現金を受け取り、インターネット上の画像を利用するなどして情報を伝達。
地面に埋めた現金を数年後に掘り返すといった方法も使われた。(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100629/amr1006291918008-n1.htm
・露スパイ、1人が容疑認める
2010.7.2 19:55
米CNNテレビ(電子版)によると、米連邦捜査局(FBI)にロシアの工作員として訴追された男女11人のうち、男1人がスパイ行為を認めていることが1日、連邦検察が裁判所に提出した供述書で分かった。
容疑を認めたのはフアン・ラザロ容疑者。
CNNが入手した供述書によると、同容疑者は
(1)ニューヨーク州にある自宅の購入費用はロシア対外情報局(SVR、旧KGB)が負担
(2)ラザロは偽名
(3)自分がウルグアイ生まれというのは事実と異なる
(4)息子は大切だが、それ以上に情報局への忠誠が重要
-と語った。
同容疑者の妻(訴追済み)も、夫の代わりにSVR工作員に文書を手渡すなどの役割を果たしたという。
同容疑者は1日、ニューヨークの連邦裁判所で開かれた保釈をめぐる審理に出廷した。
(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100702/erp1007022000007-n1.htm
・女スパイの父は元KGB
2010.7.3 01:30
米連邦捜査局(FBI)がロシアの工作員として訴追した女スパイ、アンナ・チャップマン容疑者(28)の元夫の英国人が英紙に対し、同容疑者は英国での結婚生活中に、旧ソ連国家保安委員会(KGB)の幹部だった父親を通じてスパイの道に入ったとの見方を示した。
「私を愛したスパイ」との見出しと結婚式の写真を1面に大きく掲げた英紙デーリー・テレグラフによると、元夫のアレックス・チャップマンさん(30)は、元妻から父親はKGBの幹部だったと聞いたと証言。
結婚した2002年に、ロシアの外交官としてジンバブエに赴任していた同容疑者の父親と会ったことがあり、「非常に怖い(人物)」という印象を持ったという。
また、父親は同容疑者に強い影響力を持っていたと語った。
(共同)
http://sankei.jp.msn.com/world/europe/100703/erp1007030132000-n1.htm
・スパイ逮捕で露「反オバマ勢力の仕掛け」 なお対米批判は抑制
2010.6.30 19:30
【モスクワ=遠藤良介】
メドベージェフ露大統領の訪米からの帰国直後にロシアのスパイ団逮捕が発表されたことについて、ロシアでは、オバマ米大統領の対露融和政策に反発する“タカ派”が仕掛けたスキャンダルだとする見方が強まっている。
露外務省は6月29日、米国の発表に対し、「根拠がなく、よからぬ目的を追求するものだ」と激しく非難した。
露科学アカデミー米カナダ研究所のクレメニュク副所長は30日付独立新聞に「米国は全体として、まだオバマ大統領ほど対露関係改善に前向きでない」とし、「これまでの合意事項は凍結されるだろう。両国関係はとてももろい」と事件の影響に懸念を示した。
メドベージェフ大統領は就任以来、経済の「近代化」を最優先課題に掲げ、プーチン首相(前大統領)との差別化を図ってきた。
欧米接近を進めてきた背景にも、外交を外資誘致や技術移転など自国の「近代化」につなげるべきだとの方針がある。
今回の摘発劇はそうした大統領の顔に泥を塗った形であり、ロシア国内でもメドベージェフ路線に反発する守旧派が勢いづく可能性がある。
「ちょうど良い時に来た。お宅では警察が好き放題にやり、人々を投獄している」。
旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン首相は29日、モスクワを訪れたクリントン元米大統領との会談でこう述べ、クリントン氏の爆笑を買った。
プーチン氏は「でも、それは仕事だ。米露関係に影響がないことを期待している」と続けた。
KGBの後継機関、対外情報局(SVR)は各国大使館に「外交官」として多数の諜報(ちょうほう)員を送り込んでいる。
今回、逮捕されたのは配下のエージェントで、(その上官である)外交官の追放などには至っていない。
情報筋には、プーチン首相がこうした事情を踏まえて批判を抑えているとの見方がある。
http://sankei.jp.msn.com/world/america/100630/amr1006301931010-n1.htm
働きかける側がいれば,当然働きかけられる側もいる。
今回は働きかける側だけが捕まったが、大事なのは働きかけられた側の面子のほうだ。
ホワイトハウス、国務省、オバマ政権の身内にいたであろうそいつらの頭上には、ダモクレスの剣が吊るされ、さらにそれはそいつらだけではなくオバマ政権そのものへの警告として影響を及ぼして来る。
スパイだった雑魚どもの関心項目が、小型核、アフガニスタン、核軍縮条約。
出てくる小物が、フェースブックに、スペイン語に旅行代理店。
そういう小物から考えるに、ネットを使って美女を餌に国務省やオバマ政権の外交スタッフでも釣り上げる算段だったか?
使っている手口も、旧KGB時代の名残がある。
最初にスパイとして専門に訓練された先祖の教えを、一族で代々受け継いできた伝統芸能の趣がある。
いずれにせよ今となっては専門の訓練を本国で受けていない連中だけが使う旧い手口に近い。
ただターゲットを買収するにも自分が動くにも、動いている金額が一桁二桁少ない。
完全な下っ端である。バックアップ用の草だ。
忠誠心はあるが、それなりにしか訓練されてない。自分の考えで動ける連中ではない。
注文を受け、その都度パートタイマーとして働く下請け。
きっと本人たちが,大々的な騒ぎになって一番びっくりしている。
「よもや自分のような小者がこれほど世間の注目を浴びるとは?何をやっているか全容も教えられていないただの下請けなのに?」
まあ、人生いろいろである。
でもアンナ・チャップマンなんかは本心、ちょっと嬉しかったりしているに違いない。
しかしどうでもいい。あのレベルの女にはあまりときめかない。
あれより2ランクは上の女がいるのを一杯知っている。
で、今回の茶番劇の背景はこれである。
国防総省は、オバマ政権と国務省のやり口に憤っていた。
スパイ摘発は、その意趣返しの意味もある。
・アフガン駐留司令官がオバマ政権批判、進退問題に発展
2010年 06月 23日
[ワシントン 22日 ロイター]
アフガニスタン駐留米軍のマクリスタル司令官が、米ローリング・ストーン誌とのインタビューでオバマ政権に批判的な発言をしていたことが分かり、オバマ大統領は22日、司令官と会談した上で処遇を決める考えを明らかにした。
米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍のアフガン駐留部隊を指揮するマクリスタル司令官は、「The Runaway General(逃亡する将軍)」と題された記事で、軍側近が政権高官について「役に立たない」などと述べたことを明かし、自らもバイデン副大統領やホルブルック特別代表(アフガン・パキスタン担当)を批判する発言をしていた。
オバマ大統領は閣議後、記者団に対し「記事がお粗末な判断を披露しているのは明らかだと思う」とコメントしたが、「最終的な結論を出す前に直接話をしたい」と、司令官に真意を問う意向も示した。
マクリスタル司令官は記事の内容について謝罪しているが、政権高官は、司令官が辞表を提出する見通しを示している。
同司令官が就任から1年で退任することになれば、オバマ政権のアフガン戦略の先行きがさらに不透明になるとみられる。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-15956020100623
参考:オバマ政権のアフガン戦略
2009年05月16日 (土)
土曜解説 「オバマ政権のアフガン戦略」
【岡部 徹 解説委員】
こんにちは。5月16日の「土曜解説」岡部 徹です。
【滝島雅子 キャスター】
滝島雅子です。
【岡部】
アメリカにオバマ政権が誕生してきょうで117日目になります。
深刻な経済危機への対応に多くの精力を注ぎ込んでいる新政権ですが、
同時に外交面でも待ったなしの対応を迫られています。
その最大の課題はアフガニスタンです。
【滝島】
反政府武装勢力タリバンや、国際的なテロ組織アルカイダを抑え込み、
再びアメリカ本土や同盟国に対する
テロ攻撃の拠点とさせないための戦略とは何か。
今週の「土曜解説」は、オバマ政権のアフガニスタン政策を取り上げます。
【岡部】
スタジオはロシアと南西アジア担当の山内解説委員、
そして、中東・イスラム地域が専門の出川解説委員です。
まず、現在のアフガニスタン情勢はどうなっているのか、
簡単にまとめてみたいと思います。
【映像】
タリバン政権の崩壊から7年半がたったアフガニスタンでは、
復活したタリバンと国際部隊との激しい戦闘が続き、治安は最悪の状態です。
去年、アフガニスタンで死亡した国際部隊の兵士の数は
およそ300人にのぼり、イラクでの犠牲者を上回りました。
アフガニスタンの国土の70%以上が
タリバンの支配下にあると見られています。
一方、アメリカと協調して対テロ作戦を進めてきた
隣のパキスタンも今や破たん寸前の状態です。
国境地帯ではタリバンやアルカイダが聖域を設け、
アフガニスタンへの越境攻撃やパキスタン国内でのテロ攻撃を強めています。
また経済危機や政治対立も深刻で、
パキスタンが保有する核兵器が過激派の手に渡る恐れもあるだけに、
国際的な懸念が高まっています。
【岡部】
山内さん、アメリカのオバマ政権は3月に、
アフガニスタン問題に対処するための包括的な戦略を発表しましたね。
その内容をかいつまんで説明してもらえますか。
【山内聡彦 解説委員】
アメリカの戦略には大きく3つ特徴があります。
1つは軍事だけではなく、民生面の支援も重視している点です。
もう1つはパキスタンを重視し、
アフガニスタンと一体のものとして対処しようとしていることです。
そして3つ目が国際協調を重視することです。
第1の民生支援ですが、
これは軍事力だけでは問題は解決できないということで、
農業や教育などの文民の専門家を派遣して、復興開発を目指すものです。
とは言っても、軍事力は必要ですから、
戦闘部隊と訓練要員あわせて2万人余りを増派してタリバンの勢いを抑え、
アフガニスタンの治安部隊を育成・強化する計画です。
これによって将来の撤退に向けた道筋をつけておこうという狙いです。
2つ目のパキスタンとアフガニスタンを一体のものとして考えるというのは、
先週、オバマ大統領が、
アフガニスタンとパキスタンの両大統領をワシントンに招いて首脳会談を行い、
3か国の連携を強調したことに端的に現れています。
パキスタンを重視するのは、
タリバンやアルカイダの拠点がアフガニスタンではなく、
隣のパキスタンの国境地帯にあるためです。
アメリカがいくらアフガニスタンに兵力を投入しても、
武装勢力は、パキスタン側に逃げてしまうため、
パキスタンの対応が大きな鍵を握ることになります。
【岡部】
しかし、そのパキスタンも破綻寸前だと言うことになりますと、
アメリカにできることはかなり限られてきますね。
【山内】
そこでオバマ政権が重視しているのが、3つめの国際協調です。
これはブッシュ前政権とは大きく異なる点で、
NATOや日本、それにイランなど周辺諸国を巻き込み、
より大きな役割を担ってもらおうという戦略です。
【滝島】
その国際協調体制については、これから詳しく検証していきますが、
まず出川さん、アルカイダというのは国際テロ組織といわれますね。
タリバンとはどんな関係にあるのですか。
【出川展恒 解説委員】
「アルカイダ」というのは、
世界のイスラム過激派テロ組織のネットワークですが、
アフガニスタンとパキスタンで勢力を拡大している
イスラム原理主義勢力「タリバン」の庇護を受けています。
言いかえれば、アルカイダは、タリバンの「客人」として守られ、
その拠点を確保しているのです。
アメリカやヨーロッパがとくに恐れていますのは、
核保有国であるパキスタンの核兵器や核技術が、
アルカイダの手に渡ることです。
パキスタンにしっかりした政権ができ、
有効な過激派の取り締まりと核管理を行わない限り、
決して問題は解決しません。
ところが、パキスタンの軍部は、アルカイダやタリバンよりも、
建国以来の宿敵であるインドの方に注意が向いています。
また、文民である現在のザルダリ大統領には、
軍をコントロールする力がありません。
そもそも、軍の情報部が、
政治的な思惑からタリバンを育ててきたという歴史的背景があり、
これが障害となっています。
【滝島】
山内さん、現在パキスタンはどんな状況にあるのですか。
【山内】
非常に緊迫した事態となっています。
きっかけはタリバンが国境地帯にとどまらず、支配地域を拡大して、
首都に迫る勢いを見せたことです。
場所は国境地帯に近い北西辺境州のスワト地区です。
2年近く戦闘が続いていましたが、今年2月に和平合意が成立しました。
戦争状態は収まりましたが、イスラム法が導入され、
事実上、タリバンの支配地域となりました。
タリバンはさらに先月、隣のブネール地区に進出し、
首都イスラマバードまでわずか100キロの地点にまで迫りました。
これに対して、パキスタン軍は先月末から、
1万5000人の兵力を投入して大規模なタリバン掃討作戦に乗り出し、
連日激しい戦闘が続いています。
この戦闘で50万人を超える住民が周辺地域に避難していて、
深刻な人道上の危機になる恐れが高まっています。
【岡部】
もともとパキスタン軍は、タリバンの動きにそれほど敏感ではなかったですね。
それが、このタイミングで攻撃を始めた理由は何だったのですか。
【山内】
▼タリバンが一線を越えて首都に迫ってきたこと、
▼アメリカ軍の高官がたびたびパキスタンを訪れ、圧力を強めてきたこと、
▼それに、ワシントンでの3か国の首脳会談にタイミングをあわせ、
対テロ作戦に対するパキスタンの強い決意を示す狙いがあったこと。
こうした事情があったと思います。
【岡部】
この作戦は、今後も拡大していきそうなのですか。
【山内】
問題はそこです。
仮に軍がこの地域でタリバンを根絶したとしても、
そこで作戦をやめてしまうのか、
それとも、国境地帯の武装勢力の拠点にまで軍事作戦を続けるのか、
軍の本気度が問われることになります。
注目されるのは軍事作戦に批判的だったパキスタンの国民や政治家、
マスコミが、いずれも今回の作戦を強く支持していることです。
背景には、タリバンが停戦合意を破って首都に迫ってきたことへの
強い危機感があります。
しかし、今後、住民に多くの犠牲者が出たり、避難民が増えたりすれば、
状況は大きく変わる可能性もあると思います。
【岡部】
そのパキスタンについては、先月、日本政府が呼びかけて、
東京でパキスタン支援国会議が開かれました。
議題の中心は経済だったようですね。
【山内】
経済支援を行なってパキスタンの文民政権を支え、
対テロ作戦を強めさせようというのが狙いでした。
会合では想定をはるかに上回る
50億ドル、5000億円以上の支援が表明されました。
日本は最大の10億ドルを表明しましたが、
イランが3億ドルを表明したことも関心を集めました。
世界同時不況で各国の台所が苦しい中、これだけ巨額の支援が表明されたのは、
パキスタンの現状を国際社会がいかに懸念しているかの表れだと思います。
【滝島】
出川さんは、どうみていますか。
【出川】
当初の見通しを大きく上回る拠出が約束されたことは評価できます。
しかしながら、パキスタン政府の統治能力を回復させ、
パキスタンを安定させるという、
今回の会議の目標を達成するための
具体的な道筋が見えてこないのが問題です。
各国から寄せられる多額の支援を、具体的にどう活用するのか。
貧困の撲滅や政府の統治能力の回復にどう役立てるのかが描かれていません。
パキスタン政府の汚職や腐敗ぶりがひどいだけに、
無駄に使われるのではないかという懸念が払拭できません。
また、パキスタンの軍の改革をどう進めて行くのかという問題が、
手つかずのままです。
独断専行ぶりが目立つ軍部に対し、政府のコントロールが効かないという問題。
軍の情報部とタリバンが結び付いている問題を
どう解決するのかということです。
【滝島】
パキスタンを経済的に支援する姿勢は良いけれども、
それが効果を生むかどうかは疑問だという意見ですが、
山内さんはどう思いますか。
【山内】
問題はアルカイダの拠点がパキスタン領内にあって、
アメリカ軍がここを直接攻撃できず、
パキスタン政府に頼らざるをえないことにあります。
そのパキスタン政府にやる気を出してもらうには、
経済支援の拡大なしには難しいだろうと思います。
もう1つの問題は、パキスタンの国民が過激派をあまり脅威と思わず、
むしろアメリカやインドを敵視していることです。
そうした国民の意識を変え、政治や経済を安定させるためにも、
経済支援は重要だと思います。国際社会は、支援と軍事作戦を
もっとリンクさせて働きかけを強めることが必要ですし、
パキスタンは、テロの問題を自分の問題として解決する姿勢を
もっと示してほしいと思います。
【岡部】
ここまでは、国際的なテロを抑え込むためには、アフガニスタンだけではなく、
パキスタンも非常に重要になってきたという状況についてお伝えしました。
後半は、オバマ政権がめざしている国際協調のあり方、
そして問題点について考えてみたいと思います。
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ブリッジ
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【岡部】
お伝えしましたように、
各国はまず、パキスタンを経済的に支援していく姿勢を示しています。
しかしこれはまだ第一歩に過ぎません。
後半は、オバマ大統領がめざす国際協調体制とは、
一体どんなものなのかを探ってみたいと思います。
山内さん、オバマ大統領は先月初めのヨーロッパ歴訪の際に、
アフガニスタン問題に対する協力をかなり積極的に呼びかけましたね。
【山内】
アメリカは自ら、
軍事と復興開発の両面でアフガニスタンへの関与を強める方針ですが、
同時にNATOの同盟国にも一層の努力や貢献を強く求めています。
【滝島】
NATOの加盟国も大統領の考えにはおおむね賛成だったようですね。
【山内】
確かにNATO首脳会議はアメリカの戦略を全会一致で承認しました。
しかし、増派や訓練要員の派遣の表明はわずか5000人にとどまりました。
しかも、8月のアフガニスタンの大統領選挙までの
一時的な増派がほとんどです。
NATOは、アフガニスタンに長期的に関与していくことでは一致しています。
しかし、各国とも世論の反対が強く、
増派に対して慎重な姿勢が目立っています。
また、アメリカは、アフガニスタンの周辺の
イランやインド、ロシア、中国を巻き込んだ
連絡調整グループを新たに作る方針も示しています。
【滝島】
各国がなかなか軍隊の派遣に応じてくれないというのが、
アメリカの悩みのタネのようですが、
出川さん、何がアフガニスタンへの部隊派遣の障害になっているのですか。
【出川】
国際部隊の派遣について、アフガニスタン政府と国民、
そして、派遣国の間で、大きな認識の開きがあるのが問題です。
まず、アフガニスタンの国民は、当初、外国軍の介入を歓迎していましたが、
現在は、不信感を強めています。
それは、多国籍軍による誤爆で、
大勢の一般市民が犠牲になる事例が後を絶たないからです。
今月初め、西部のファラー州での戦闘では、
アメリカ軍の空爆で、一般市民140人以上が死亡しました。
「外国の軍隊がいることが、アフガニスタンに災いをもたらしている」、
あるいは、
「外国部隊の駐留が、かえってタリバンを呼び込んでいる」と言った
反発や非難の声があがっています。
一方、派遣国の政府は、
自国民に部隊派遣の必要性を説明することに苦慮しています。
治安回復の効果が現れていないからです。
ですから、アフガニスタンへの増派について、
どうしても、「及び腰」になってしまいます。
【岡部】
今回は、30年来アメリカと敵対関係にあるイランも、
アメリカの呼びかけに応じてアフガニスタン支援のグループに加わっています。
出川さん、イランがアメリカに協力する理由はどこにあるのですか。
【出川】
イランも、「タリバン」とは敵対関係にあります。
「タリバン」は、イスラム教スンニ派の原理主義勢力で、
イランが国の理念としているシーア派を「異端」と見なしています。
ですから、イランの指導部は、
タリバンの勢力拡大を大きな脅威ととらえています。
さらに、アフガニスタンから麻薬や難民が流入してくるのを
食い止めなければならないと考えています。
タリバンを打倒し、
アフガニスタンを安定に導かなければならないという大きな目標では、
イランとアメリカは、利害が一致するのです。
【岡部】
今、話に出た“麻薬”はタリバンの資金源になっていると言われますが、
周辺の国にとってはかなり深刻な問題のようですね。
【出川】
はい。
アフガニスタンの混乱ぶりは、麻薬の問題抜きには語れないと言えます。
アフガニスタン一国で、世界の麻薬・けし栽培の90%を占めているのです。
とくに南部のヘルマンド州で、その半分の量が生産されていますが、
タリバンの活動が最も激しい地方です。
タリバンは、麻薬ビジネスによって莫大な資金や武器を獲得しています。
さらに、麻薬の問題は、
政治家や公務員の汚職の問題にも深く絡んでいるのです。
【滝島】
山内さん、アメリカとの関係が最近まで冷え切っていたはずのロシアも、
アフガニスタン問題では協力する姿勢を見せています。
これはどうしてですか。
【山内】
ロシアとアメリカはさまざまな問題で対立していますが、
アフガニスタンの安定化を求める点では両国の利害は一致しています。
ロシアにとってアフガニスタンが不安定化して、
イスラム過激派が中央アジアを揺るがしたり、
今も話に出た麻薬が流入したりすることは大きな脅威です。
ロシアは、すでにアフガニスタンへの物資の輸送問題で
アメリカに協力しています。
現地に駐留する国際部隊のための補給物資を積んだ列車が
ロシア領内を通過することを認めました。
【岡部】
しかし山内さん、アメリカは中央アジアのキルギスの基地を、
アフガニスタン作戦のために使っていましたが、それが最近使えなくなった。
それはロシアのせいだと言われていますね。
【山内】
ロシアはキルギスに多額の援助を与える見返りに
基地を閉鎖させたと見られています。
アメリカは非常に大きな打撃を受けたわけです。
ロシアとすれば、中央アジアからアメリカの影響力を排除し、
自らのコントロールを強める。
それによって、アフガニスタン問題への協力を
グルジアへの軍事侵攻で悪化しているNATOとの関係改善などの
外交的なカードに使いたいという思惑があると思います。
この問題でも米ロの駆け引きが続いているわけです。
【滝島】
国際政治の複雑なパワーゲームですね。
ところで出川さん、オバマ大統領が最初に訪れた中東の国はトルコでした。
これにはどんな意味があったのですか。
【出川】
トルコは、ヨーロッパと中東の「懸け橋」に位置する国です。
そして、アフガニスタン、パキスタンの両国と友好関係にあります。
とくに、パキスタンとの関係は、軍も政治家も、
「古くからの親友」とも言える緊密なものです。
オバマ政権としては、パキスタンに直接圧力をかけますと、
イスラム勢力の反米感情を刺激しますので、
NATO加盟国であるトルコに仲介役となってもらうことを
考えているようです。
【岡部】
ところでアメリカでは、
タリバンの穏健派を取り込んで分断させようという動きも出ています。
これはイラクで成功した方法だということですが、
具体的には何をしようとしているのですか。
【出川】
地元武装勢力に、給料や武器を提供して、
アルカイダと戦わせようというもので、
イラクでは治安の改善に一役買った方法です。
ただ、アフガニスタンでも、うまくゆくかどうかは疑問です。
最大勢力のパシュトゥン人の内部対立が根深く、
アメリカに対する敵意も強いので、武器や資金を与えると、
むしろ混乱が拡大する恐れがあるという指摘があります。
また、「タリバン」との交渉や対話をすると言っても、
現在の「タリバン」は、統制のとれた組織ではなく、
犯罪集団までも含む有象無象の武装勢力です。
選挙で民衆から選ばれた政治組織でもありません。
こうした集団を、交渉の相手方として、
正当性を与えてしまうことには問題があります。
対話・交渉したからと言って、治安が改善する保証もありません。
今のタリバンに、正当性を与えるような働きかけはすべきでないと、
専門家は警告しています。
【山内】
私はタリバンとの交渉や対話はアメリカの戦略を大きく転換するものですが、
実際には非常に難しいだろうと思います。
まずタリバンはすべての外国軍の撤退を求めていて、
交渉に応じる気配は全くありません。
状況がタリバン有利となっているため、
交渉に乗ってこないのではないかと思います。
また、アメリカにとっても、
なぜ今タリバンと対話なのかという問題があります。
もっとタリバンを軍事的に追い込み、
強い立場からタリバンを交渉のテーブルに引き出す必要があると思います。
【滝島】
さて、アフガニスタンでは8月20日に大統領選挙が行われます。
当面の焦点はこの選挙と言うことになると思いますが、
出川さんはあまり楽観していないようですね。
【出川】
はい。なかなか楽観的にはなれません。
公明正大な選挙になるかどうかというよりも、
選挙そのものの実施が危ぶまれる状況です。
まず、今月21日に、カルザイ大統領の任期が切れます。
すると、法的には、「権力の空白」状態が生まれ、
選挙の進め方をめぐって対立が起きる恐れがあります。
そして、何よりも懸念されますのは、治安の悪化でして、
候補者、有権者、国際監視要員の安全を守れるかどうかです。
さらに、候補者の顔ぶれを見ますと、
現職のカルザイ大統領は、すでに国民の信頼や求心力を失っています。
その他の候補も、内戦時代の行動が「人権侵害」に問われたり、
麻薬ビジネスとの関わりを指摘されたりしています。
選挙を実施することで、アフガニスタンが、
今まで以上に不安定にならなければ良いがと心配です。
イラクでもそうだったのですが、新しい国づくりで、選挙をきっかけに、
政情がいっそう不安定になるケースが多いのです。
【滝島】
山内さんはどうですか。
【山内】
タリバンは先月末アフガニスタン全土で
大規模な攻撃を行なうと警告しました。
今後夏に向けて、増強されるアメリカ軍部隊が次々にアフガニスタンに到着し、
主に南部で激しい戦闘が予想されます。
そうした中で、まず治安が確保され。
選挙が本当に無事行なわれるのかという問題があります。
選挙はカルザイ大統領が有力と見られていますが、
一方で治安が悪化し、復興開発が進まない中、
出川さんが言うように、国民の批判や不満が高まっています。
また、アメリカからも、汚職がひどく、
政府も機能していないと厳しく批判されています。
カルザイ大統領にとって大統領選挙が最大の正念場ですが、
オバマ大統領にとっても、新たな戦略が本当に機能するのか、
これから真価が試されることになると思います。
【岡部】
オバマ政権が最大の外交課題としている
アフガニスタン問題について見てきましたが、
これはまだ、あくまで「基本構想」の段階です。
オバマ大統領の政治手法は、
まず「こうあるべきだ」という理想を掲げたうえで、
現実に合わせて徐々に修正を加えていくと言うのが特徴のように思いますが、
アフガニスタン問題は、ひとつ采配を間違えますと、
関係する国々の結束が乱れて、泥沼化する危険性をはらんでいます。
この地域を、再びテロ攻撃の発信基地にしないという目標を、
どのように達成するのか、
オバマ政権の外交手腕が問われることになります。
http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/500/19879.html
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