金曜日, 6月 18, 2010

愛着 なぜ子供は虐待母をも愛するのか?

・反応性愛着障害家族の絆と愛着

反社会的な事件の犯人像を、「愛着障害」とする報道が散見されます。某紙の世論調査によれば、90%の人が家族を大切に思いながらも、84%の人が絆の弱さを案じているとのことです。

家族の絆には、夫婦の絆、親子の絆、きょうだいの絆が絡みあいます。
そのなかで、親子の絆の基礎になるのは、家族の絆の母子限定版といえる、幼少期の愛着関係です。

第2次大戦後のアメリカで、衛生と栄養管理が行き届いているにもかかわらず、乳幼児養護施設の子どもたちに発育不全が多発しました。

愛着(attachment)は、施設病(hospitalism)と名付けられたその状況の原因解明に貢献したボウルビーの造語です。

子どもの健全な発育には、母性的な愛情関係が欠かせない。
その関係は母親に対する一方的な依存ではなく、乳幼児の愛らしさが母親の育児疲れを癒すという、母子相互作用の関係であるというのです。

発達心理学に大きく寄与した彼の「愛着理論」なのですが、女性のくびき、母性神話として、女性運動からの批判を浴びせられます。
子どもを育てるのは母親だけなのか。母のない子はすべて発達上の問題があるのかと。そこで今日では、主な養育者(care giver)との愛着関係と言い換えるようになりました。


・愛着障害とその症状

愛着関係の不全は、さまざまな症状をもたらします。

大脳の神経回路の形成期に、虐待や放置、気まぐれな育児、異なる養育者等を常時経験すると、脳神経発達や、中枢神経系統に障害が加わり、脳の組織と機能に深い影響を及ぼすのです。
それは、長じてのさまざまなパーソナリティ障害の要因となります。
パーソナリティ障害とまではいかなくとも、個性のレベルを超えた性格の偏りとなって周囲を悩ませます。

行動面では、衝動や欲求不満をコントロールできず、反抗挑戦的で、衝撃的、破壊的な行動を起こしやすくなります。
親や教師からの関わりを束縛と感じて、攻撃的、自虐的行為で反応します。
弱者に対して残酷であり、しばしばいじめの加害者となります。

感情面では、恐怖感と不安感の現れとして激怒反応を起こしやすくなります。
直面したことに対して不適応な感情反応を起こし、ムカつき、キレルのです。
抑うつ感が根底にあるので、何事も心から楽しんだり喜んだりできず、未来に対して悲観的です。

思考面では、自分自身の人生に対して否定的、消極的な考えを抱きます。
常識はずれで、物事に集中できず、年齢相応の考え方ができません。

人間関係面では、人を信じることができず、威張り散らしたり、人を操ろうとします。
他者の情愛を受け入れず、自分も与えることが出来ません。

一方で、知らない人には愛嬌をふりまきます。
同年代の人たちとの友人関係が保てず、自分の問題や間違いを他人のせいにします。

自分はいつも被害者だと確信しているので、親や教師など、自分に対して権限を持つ人には反抗的であるだけでなく、操ろうとして確執が起こります。

思春期の子どもは、胎児期から3歳時までにつぐ第二の発達加速期にいます。
我が子との心理的絆を太くたくましくするためにことさら満点の親を演じる必要もないのですが、この時期の以下のようなほどよい(good enough)関わりが、かなりの割合で愛着不全を修復してくれます。

① 視線を合わせる。子どもの目線と同じ高さで、子どもの目を見ながら話す。
② 互いに微笑み合う。理由が無くても良い。ただ子どもといるのが楽しいという気持ちを 伝える。子どもの笑顔には必ず応える。
③ 嫌がりさえしなければ、子どもを抱きしめる。
④ 優しく、軽く体に触れる。肩、二の腕、背中など。
⑤ 背中をマッサージをする感じでなでる。
⑥ 語りかける時は、明るく、静かに。言わなくてもいいことや、自分が言われて嫌なこと は言わない。
⑦ お説教はしない。「そうしたらどうなると思う?」と問いかける。
⑧ 子どもが自分や他人を危険にさらす事をした時だけ、その行動を描写して、きっぱりと 諭す。「こういう事をしたら、こういう結果になり、貴方が傷つくでしょう」と。
⑨ 子どもが自分の言うことを聞いたら「ありがとう」を忘れずに言う。
⑩ 子どもが良いことをしたら、その行動を描写してほめる。
⑪ 子どもが自分の誇りであることを伝える。言語的にも、非言語的にも。
⑫ 子どもの話すことには、気持ちの流れを理解するように耳を傾けること。そして理解で きたことを言葉にして返そう、You feel ~, because ~.と。

親子の絆は、ただ一緒に暮らしているだけでは深まりません。絆を太くたくましくしようとの努力が必要なのです。

http://www.cocorocom.com/cram/mutter/index.php?id=18















・愛着理論

愛着理論(あいちゃくりろん、Attachment theory )は、心理学、進化学、生態学における概念であり、人と人との親密さを表現しようとする愛着行動についての理論である。

子どもは社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それが無ければ、子どもは社会的、心理学的な問題を抱えるようになる。

愛着理論は、心理学者であり精神分析学者でもあるジョン・ボウルビィによって確立された。

愛着理論では、幼児の愛着行動は、ストレスのある状況で対象者への親密さを求めるために行っていると考えられている。

幼児は、生後6ヶ月頃より2歳頃までの期間、継続して幼児の養育者であり幼児と社会的相互作用を行い幼児に責任を持つような大人に対して愛着行動を示す。

この時期の後半では、子どもは、愛着の対象者(よく知っている大人)を(外界環境探索のための)安全基地として使うようになり、そこから探索行動を行い、またそこへ戻る。

子供の挙動に向ける親の反応は、子供の内面で愛着行動の様式の自律的発展を促す。

そしてそれは、後年における子ども自身の内的作業モデルの形成を促し、個人の感情や、考えや、期待を作り上げる。

親との離別への不安や、愛着の対象者が去った後の悲しみは、愛着行動を行う幼児にとって、正常で適応的な反応であると考えられている。

こうした行動は、脆弱な状態で生まれてくる人間の子どもが外界環境を生き延びる確率を高めるために生じたのであろう。

発達心理学者のメアリー・エインスワースによる1960年代から1970年代の研究は、愛着理論の基本的な概念を確立した。

「安全基地」という概念を提案し、また幼児における愛着行動のパターンを分類し、「安全の愛着」、「回避の愛着」、「不安の愛着」の3つに分けた。

4つ目の愛着パターンは、「混乱の愛着」であるが、後で発見された。

1980年代には、愛着理論の対象は、大人にも拡大された。

愛着行動の一要素として含まれる可能性があるのは、全ての年齢における友人ないし同僚との関係、異性への性的吸引力、幼児や病人や老人すなわち弱者がケアを必要としていることなどである。

幼い頃の子どもの愛着行動の本質を包括的に説明する理論を構築するために、ボウルビィは学問分野の範囲を広げて、進化生物学、オブジェクト・リレイション理論(精神分析による理論)、制御システム理論、動物行動学(エソロジー)、認知心理学などを研究対象に含めた。

1958年以後の予備的研究の論文以後、ボウルビィは「愛着と喪失」(1962-82)の三部作の中で、理論の全容を発表した。

当初、フェミニズム的観点から母性を重要視し母親の責任を過大評価しているという理由で大学の心理学者たちはボウルビィを批判した。
そして、精神分析をするグループは、彼が精神分析の理論を放棄していると批判し彼を追放した。

しかしながら、その頃、愛着理論は、生後早期の社会的発達を理解するための主要な臨床研究手段となり、子どもが母親との親密な関係を構築する過程に対する実証的研究の爆発的な発展を招いたのである。

愛着理論に対する後からの批判は、子どもの気質、社会的関係の複雑さ、分類のための各パターンの境界などに関する批判であった。

愛着理論は、実証的研究の結果により、これまでも修正を受けてきたが、その主要概念は、現在広く受け入れられている。

なおかつ愛着理論は、これまでの治療法や新しい治療法の基盤となっている。
そして愛着理論の概念は、社会政策や子どもケアの政策を立案する際に実際に使用されている。

愛着とは他の人間と親密な距離を求めようとする傾向の事で、その人間が傍にいてくれるなら安心感が得られるというものである。

これはグループセラピーの中でも使われる事がある。

愛着理論は、元々は動物の行動観察の中から語られるようになった。

人間の行動について使われるようになったのは、ジョン・ボウルビィらの『母子関係の理論』という大部の第二次大戦後のイタリアの孤児院での孤児の罹病率、死亡率の高さについての研究報告以来の事である。
(栄養状態に関係なく、通常の母子にあるような濃密な関係をもてなかった幼児の死亡率は、そうでない幼児に比べより高くなる傾向にある。)

愛着理論は、人間が社会的な存在である事を前提しており、その中では(親の存在によって子供が受容できる)安全(安心感)という事が重要なキーワードとなっていて、対象関係理論と密接な関係を持っている。

愛着行動のシステムは、愛着の対象者(保護者、親)に対する親密さを達成し、それを維持する目的で機能している。

前-愛着行動は、生後6ヶ月以内の乳児に見られる。

最初の時期(生後8週まで)では、乳児は、養育者の注意を引くために、微笑んだり、声を出したり、泣いたりする。
この時期の乳児は、次第に養育者を区別するようになるが、これらの行動は、近くにいる誰に対しても無差別に行われる。

第二の時期(生後2ヶ月から6ヶ月まで)では、乳児はよく知っている人と知らない人をよく区別するようになり、養育者に対して、より強く反応するようになる。
すなわち、親だけを選択して後追いをしたり、まとわり付いたりする行動が加わる。

第三の時期(6ヶ月から2歳まで)には、明確な愛着行動が発達する。
養育者に対する幼児の行動は、安心を感じられるような状況を達成するための、ゴールを目指す組織化された行動になる。(合目的的傾向を示す)

1歳の誕生日までには、乳児は、親との親密さを維持するために自発的広範囲に愛着行動を示すことが可能になる。
養育者が去ってしまうことに泣き喚いて抗議し、養育者が戻ってきたら挨拶し、びっくりしたらまとわり付き、可能なら後追いする。

移動する能力の発達につれて、幼児は養育者を、(自己の周辺環境の)探索のための安全基地として使い始める。
養育者がそばにいる場合には、幼児の愛着システムは弛緩して、自由な探索行動を可能にするので、幼児は環境への探索行動を熱心に行う。

養育者がそばにいない場合には、周辺環境への探索行動は強く制止される。
不安、恐れ、病気、疲労などがある場合には、子どもの愛着行動はその後より増強する。

生後2年以後、幼児が養育者を独立した人間として見なし始めるにつれて、さらに複雑でゴールをめざすパートナーシップが形成される。

子どもは、他者の目標や感情を理解するようになり、それに従って自分の行動を計画する。
例えば、乳児は単に心理的苦痛から泣くのであるが、2歳児は養育者がある行動をするよう求めて、それを意図して泣くのである。

そして、効果が無い場合には、より効果的な方法を駆使する。
つまりさらに大きな声で泣いたり、叫んだり、追いかけたりするのである。



通常の愛着行動と愛着感情は、社会的環境に適応するのに役立つ。

ヒトは選択により進化しており、ヒトの社会的行動は、個体が生存しやすくなるように機能している。

通常観察される、よちよち歩きの幼児が見慣れた人の近くに留まろうとする愛着行動には、自己の安全を確保した上で周辺状況を探索できるメリットがある。

ボウルビィは、初期適応の環境が、現代の狩猟者-採集者の社会と似ていると考えている。

愛着行動は、見知らぬことや一人にされることや急に近づかれることなどの、危険を引き起こすかもしれない状況を察知する能力を高めるという生存上の利益がある。

ボウルビィによれば、脅威に際して対象者に親密さを求めることは、愛着行動システムが設定した目標であると述べた。

愛着のシステムは強力であり、幼い子どもは、理想から程遠い環境下でも、容易に愛着を形成する。
(親からの過酷な虐待にさらされ、なお親への愛着を持とうとする被虐待児童を想起せよ!)

この強力さにもかかわらず、養育者から長期に分離されたり、愛着の形成を妨げるほど頻回に養育者が交代したりすれば、後年のある時点で、子どもの精神に病的な結果がもたらされるであろう。

生後早期の子どもは、見知らぬ人にも、生物学的な親にも、同じように愛着を示す。

特定の人に対する愛着と愛着行動は、特定の人からの愛着と養育を求めるものであるが、一定の期間を経過する中で形成される。

幼児が養育者から分離されて取り乱している時には、養育者との結びつきは、養育者が目の前にいることによるのではなく、辛抱し我慢する状態にあることを示している。


年齢を重ねること、認知の発達、社会的経験の蓄積などにより、内的作業モデルの複雑化や発達が促される。

愛着に関連する行動は、よちよち歩きの頃に示された典型的な特徴の一部を失い、年齢に相応したものに変わってゆく。

就学前の時期の子どもは、親の存在との間で、交渉や取引きを行うことができる。
例えば、4歳児は、養育者が一旦居なくなってまた戻ってくる計画について、養育者と交渉して納得しているのであれば、養育者が居なくなっても悲しまない。

理念的には、こうした社会的技能は、他の子ども仲間や後年の大人の同僚との間で使用される内的作業モデルに組み入れられて行く。

子どもが6歳以後、学童期になれば、たいていの場合、親との間に目標を正しく目指すパートナーシップを構築し、それにより各パートナーは、満足できる関係を維持するために、喜んで歩み寄る。

子ども時代の中期までに、愛着行動システムの目的は、対象者への親密さから有益性へと変化する。

一般的に言えば、子どもは、養育者との接触が可能であるのなら(もし必要なら、体の近くに来てくれる可能性があるのなら)、養育者との長い時間の分離にも耐えられる。

まとわり付きや後追いなどの愛着行動は少なくなり、自分自身への信頼が増して行く。

子ども時代の中期(7歳から11歳)までには、安全を維持する目的で、子どもの行動を監督しコミュニケーションを維持するために、養育者と子どもが相互に交渉してコントロールする状態から、さらに大きく進んだ独立の状態へと移行する。

                    (ウィキペディア)

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